虫が群がりチカチカと今にも電球の切れそうな街頭の下、僕は暗い寒空をほとんど放心状態に空を見上げ待っていた。というか長い長い時間のなかで待たされていた。
毎回おでこの血管が切れそうになるぐらい遅刻してくるわりに、小さな中古の外車の窓ごしにへらへらと笑いながら登場するその待ち人はここ数年間、時間通りに来たためしがない。
イラつく心を抑え時計をしない主義の僕は待ち合わせの時間を確認しようとジャケットのポケットをまさぐる。
出てきたのはライターとコンビ二のレシートと10円玉が三枚。
「しまった!」
携帯電話を携帯していないことに気づく。ついでに吸いかけのハイライトも。
家に携帯を取りに戻ることも考えたが、戻る時間を考えれば待っているほうが何かと都合がよいと僕の中の「めんどくさいくん」が耳元でささやいた。
「じゃ、いつもの公衆電話のまえで待ち合わせと言うことで」と電話を受けて約1時間。
いまだに来る気配さえ感じられない事に不安と苛立ちを覚えた。
携帯電話の大々的な普及に伴いその数を減らしつつある公衆電話。
数が激減したおかげで、たまに目に付くそののっぽなガラス張りのハコは雨風もしのげる僕たちの絶好の秘密の待ち合わせポイントになっていた。
裏通りの港に近い工業地帯の開けた道沿い。
小さな街灯ぽつぽつとあるぐらいで深夜には人通りがほとんどないこのポイントは待つ者に孤独感を植えつける場所でもあった。
いつになく待ちぼうけの僕は海風を受けながら仕方なく公衆電話で連絡してみようと引き戸を開けた。
突然の事態に驚きの声が出そうになった。
ボックスの中に何か大きな塊が地面にうずくまっている
よく見るとそこにはなぜか髪の毛がビッチョリと濡れ震えている女子高校生。
ボックス内に座り込み僕の存在を気にもせず受話器を耳に強く当てていた。
よく見ると足元にジェラルミン製っぽい銀色のごついケースを抱えている。
声をかけ様かとも思ったが彼女の何人も寄せ付けないその異様な雰囲気に足踏みしてしまった。
仕方なく電話ボックスを出た僕は途方にくれることに。
空を見上げると灰色の厚い大きな雲が満月の光をさえぎろうと少しずつ僕らのほうへ近づき動き始めていた。
続く…。
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