ある男の浮き沈み。1

最近なんだかうまく行ってない。
なにが?と言われると少々困ってしまうが、
なんだかうまく事が回ってない気がしてならない。
納得行かない自分に腹を立て、何事にも不満が湧き出てくる。
今の自分の実力や考え方、将来や過去、仕事のこと、家族のこと、友人のこと、恋人のこと。
考えれば考えるほどその重苦しさに耐えなれなくなりそうになる自分を恨めしく思った。
悶々としながら水圧の強いシャワーの下、水滴一つ一つを肌で感じながら前髪を両手でかき上げ、ふと思った。
「いっそ自分を誰も知らない自分のしらないどこかに飛んでいってしまいたい…。」
そうすれば今の自分を捨て新たな自分を勝手に作り上げられるかもしれないと言う安直過ぎる考えが浮かんだ。
土砂降りの雨の中空を見上げるように僕は目をつぶりシャワーを顔全体に浴びながら、天井の向こう、空の向こう、宇宙の向こうへと意識を集中した。
意識が遠くなり始めた瞬間、なんだか体全体の力がスーッと抜け空に吸い込まれるような不思議な錯覚に襲われた。
あまりにも心地いいその刺激に、今あるなんとなく釈然としない自分のすべてを委ね、何も考えたくない感覚に包まれていた。
しかしふと、何かが違うと感る。
自分の知っている現実にない感覚。
目を開け周囲に目をやる。
やはり何かおかしさを感じる。
今シャワーを浴びながらもしゃもしゃの髪の毛を掻き分けながらぶつぶつ悩んでいた数秒前の状況と決定的ではないにしろなにか違う状況におかれているのを。
なんなく、
シャンプーとリンスのボトルが若干小さくなったように感じる。
なんなく、
いつも使っているシャワーの高さがえらく低い位置に変わっているように感じる。
なんなく、
いつも見上げていた天井が妙に低いと感じる。
なんなく、
足元の床のタイルには確かに足の指まではっきりと識別できる黒い影がぼんやりと映っているように見える。
つづく…。

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